手芸を1ミリも知らなかった男がタワシを編むまでの軌跡
1月初旬
皿洗いに使っているスポンジがヘナヘナになる。
毎日使っていると、約一か月で白かったスポンジはカレー色に染まり
2か月もすれば弾力性は失われ、高野豆腐と見分けがつかなくなる。
グーグルで何か良いものはないかと調べると、アクリル毛糸で編むアクリルたわしというアイテムが絶賛されていた。細かい繊維で汚れを取るため、洗剤が要らないらしい。
肌に優しく、そのうえ家の掃除にも使えるドラえもんの秘密道具級の代物ということだ。
これは作るしかない!
わたしたわし編む!
1月初旬
一生入ることはないだろうと思っていた百貨店内の手芸屋に行ってみる。
男一人でちょっと緊張。
店内をうろついていると母親と女子高生が胸キュンな会話をしていた。
「あんたねぇ、人にあげるんだったら相当上手くならないとダメだよ」
「うん、がんばる……」
努力が報われるといいね。
青春オーラに当てられながら編む道具を売っているコーナーに辿り着くと沢山の器具が置いてあった。
今まで編み物と言ったら棒二本でワチャワチャやるものだと思っていたのだが、かぎ針という棒一本で編める道具もあるらしい。
値段を見てみると、数本のかぎ針が入ったセットで7800円。
7800円!?
いや、タワシ一生分買えるやん!!!
こんな耳かきが7800円てハイパーインフレかよ!
100均行けばあるんじゃないの!?
さっきの女子高生に「買った方が早いよっ」って教えてあげなきゃ!
様々な思考が脳裏に浮かびながら
私は泣く泣く店をあとにした。
1月10日
予想は的中した。
100円ショップ キャンドゥに竹製のかぎ針が置いてあった。
さすがキャンドゥ、ほしかった商品がここにある。あったらいいなが揃ってる。
ついでにアクリル毛糸も購入。
ここまでいけばもう、タワシなんて既に完成したようなものである。
1月16日
はい舐めてました。
Youtubeでタワシの編み方を勉強するも、かぎ針の異次元の動きについていけず挫折。
「立ち上がりを1回編んでから鎖編みを……(スイスイスイ~」
「ひっくり返して裏山の5個目に……(スイスイスイ~」
小学1年生が『よくわかる微分積分の解説動画』を見たところで ポカーンってなるのと同じで、かぎ針の持ち方すら知らない人間がいきなり編めるわけがない。
タワシのことは一旦忘れて、編み物の基礎から勉強しよう。
持ち方から教えてくれるサイトを何度も見ながらゆっくり練習。
立ち上がりの1段目は、こんな感じで編むらしい。
ふむふむ。
なんとか理解して、1段目の動きだけは真似することができた。
汚ねぇ!!
既に使い古したタワシのような皺くちゃ具合。
安定しない編み目の大きさ。
自由気ままにほつれだす糸。
……これは酷い。
どうやら慣れるまで相当時間がかかりそうだ。
2月24日
1段目を編むだけで1か月以上苦戦。
正確には、1段目は編めるようになったものの、2段目以降への繋げ方がわからず難航したあげく、コタツの横にポイー。
とはいえ、いつまでも1段目で止まっているとミサンガしか編めない。
IQ5億をフル回転させ、動画をスロー再生しながらどうにか編んでみた。
実るほど 頭を垂れる稲穂かな
稲穂じゃないよ アクリルたわし
----------在原魚平(101番歌)----------
【現代語訳】
よく実った稲穂かと思って見てみたら、曲がりくねったタワシだったんだなぁ。
何だろう、ぐにょ~んってなってるんですけど?
しかも2段目の立ち上がりの数を間違えて、大胆な隙間出来てるし。
おそらく1段目の編みに比べ、2段目が緩かったせいで引っ張られてしまったのだろう。
2月25日
一つの妙案が浮かんだ。
3段目以降をきつく締めることで、いい感じに真っ直ぐになるんじゃね?
調べてみると編み物の専門用語で『Chikara-waza』というらしい。
この手法を使えばこの通り。
なんとかなった!手芸しゅげー!!
最大の難関だった、2段目以降への繋ぎ方も出来るようになり、あとは好きな大きさになるまで編んでいくだけだ。
ようやく、完成が見えてきた。
2月26日
好みの大きさになるまで編めたら、オシャンティな取っ手を
スイスイ~っと編み、はい出来上がり。
編み目は汚いし、緩いし、薄いし、形は悪い。
ひょっとすると編み方を間違えてるかもしれない。
でも知識ゼロから初めて、完成したときは中々嬉しかった。
棒をくねくねさせるだけで、ただの糸からタワシが出来たのだ。
初めてのタワシ が完成した喜びに浸りながら、最後の仕上げに
編み始めと、編み終りの2本の余った糸を根元からハサミで切った。
――が、これが大きなミスだった。
編み物は裁縫と違って玉結び、玉止めがない。
根元から毛糸を切ってしまうと、使った瞬間からスルスルとほつれていく。
当然だ。
切った瞬間に、このミスに気付き調べてみると、通常、余った糸は
長めに残し、とじ針という針を使って中にしまい込むらしい。
そんな針が要るなんてきいてないよ~!
勝手に裁縫の知識を当てはめて、こうだろうと決めつけてしまった自分の責任だ。
「針の穴から天を覗く」とはまさにこのこと。
最後の最後で痛恨のミスをしてしまい、記念すべき第一作はタワシからコースターへ降格した。
2月27日
とはいえ落ち込む必要なんてない。
一度やり方さえ覚えれば、シンプルなタワシなのですぐ出来る。
二作目は一日で出来た。
今回はちゃんと始めと終わりの糸を残して完成。
若干ガタガタしてるけど、及第点としよう。
今回作ってみて分かったことは、完成すると結局愛着がわいて使えないことだ。
4月現在、新たに買った高性能なスポンジでお皿を洗っている。
タワシはどうしているかというと、汚れないように本棚に飾ってある。
今後も暇なときに作ってみようと思っているものの、きっと完成すると愛着がわいて本棚に仕舞うことになりそうな気がする。
こうしてアクリルたわし風オブジェ作りは成功のうちに終わった……のかな~?
参考
長編みで作るアクリル(エコ)タワシ☆かぎ針編み☆- YouTube