未完成の美学

人間に想像力がある限り、この遊園地は完成しない

 

世界一有名なテーマパークを作った、ウォルト・ディズニーの言葉だそうです。

彼の言葉を守るように、ディズニーランドは今でも進化し続け、世界中の人たちを魅了しています。

 

日本にも古来より「完成した瞬間から崩壊が始まる」という考えがあり、建物を建てる際、柱や柱の模様を本来あるべき状態ではなく、あえて逆さにして建物自体を未完成の状態にする、逆柱(さかさばしら)という風習があるそうです。

 

完璧な状態で引き渡せよ!って思う人もいるかもしれませんが、完全な璧(球体)はもうこれ以上先がないという状態でもあり、あとは崩壊していくしかないとした昔の人の考えには、厨二心的なアレも含め、共感しかありません。

 

今回はこの、未完成の美しさについて、語っていきます。

 

みかん星 ハッブル宇宙望遠鏡撮影

 

千日回峰行

 

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千日回峰行(かいほうぎょう)とは比叡山延暦寺で行われている修行のひとつで、通算千日の間、雨の日も風の日も休むことなく山々を歩き回り、祈祷を捧げ、ほぼ地球一周分三万数千キロの距離を歩く、とても厳しい修行です。

 

修行に失敗したときは自害しなければならない。

九日間の絶食をする期間があり、期間中は不眠不休で水すら飲むことが許されない。

 

など、想像を絶する荒行で、比叡山延暦寺の長い歴史の中、これまでに達成した人はわずか51人しかいないそうです。

 

そんな千日回峰行ですが、厳密に言うと千日ではありません。

実際に歩く期間は975日。わずかに足りていません。

どうやっても修行は未完のまま終わるのです。

 

では残りの25日は何なのかというと「残りは人生をかけて修行しなさい」という意味なのだとか。

 

くぅー!!これよこれ!

あえて終わらせない、少し欠けた状態にすることで、その足りないものを一生をかけて追い求めるという考え。この修行を考えた人は未完成の神髄を理解(わか)ってる!

 

失礼、取り乱しました。

 

心理学の用語で「ツァイガルニク効果」と呼ばれる心理現象があります。

物事を完結させないほうが、完結した場合より、続きが気になり記憶に残ってしまう現象だそうです。

 

やり遂げた達成感というのも、とても大切なんですが、一方で叶わなかった夢や後悔に、より人間味を感じてしまうことはありませんか?

 

高校2年の頃、家庭委員という、何のために存在しているのかわからない委員会に所属していたのですが、その唯一の仕事が、夏休みに近くの女子大の学生と一緒に、トムヤムクンを作るということでした。

 

当時の私は炎天下の夏休みに学校とか論外オブ論外と思っていたので、息をするようにサボったのですが、大人になった今でも街中で「トムヤムクン」という単語を聴くたびに、参加しなかったことをトラウマのように思い出します。

 

トムヤムクンの作り方を教わり、自分で調理して食べる。大人になったらもうこんな経験は、A●Cクッキングスタジオでお金を払い、外から丸見えの教室で買い物客からの羞恥に耐えながらじゃないと出来ないわけです。

 

もしあの夏、家でキノの旅を読んでいないで調理実習に参加していれば、高校時代の思い出の一つとして薄れていたかもしれませんが、参加しなかったことで、トムヤムクンがどんな味なのか、どんな材料なのか、作り方は……何も知らないままです。

お店で食べれば味はわかりますが、そこは敢えて一度も食べないままにしています。

 

未知の出来事に挑戦しなかった後悔。

私はこれを「ツァイトムヤム効果」と呼び、愚かな自分への戒めとしています。

あれ……美学でもなんでもない?

 

 

国会議事堂の四つの台座

 

国会議事堂の中央広間の四隅に、四つの台座が置かれているのはご存知でしょうか。

 

その台座には日本の議会政治の礎を作った板垣退助大隈重信伊藤博文という三人の偉大な政治家の銅像が設置されています。

 

 

勘のいい皆さんはもうお気づきでしょう。

台座が四つで、銅像が三人。

残り一つは何も建てられていないまま空席となっているのです。

 

理由は四人目を決められず、将来に持ち越したためらしいですが「政治に完成はない未完の象徴」となっているそうです。

 

https://www.sangiin.go.jp/japanese/taiken/bochou/pdf/japanese/20200308-09.pdf

 

この人ならここの空席に建ててもいいよ、と日本国民が思えるくらいの政治家が、早く出てきたらいいですねー。

 

 

 

冒頭に述べたように、日本の伝統建築物でも未完成の状態で残してある区画があります。

 

例えば、柱の一本だけを敢えて逆さに設置した日光東照宮逆柱 - Wikipedia

 

わざと屋根の上に不要な瓦を置き残したままにしている京都知恩院の本堂

知恩院本堂

 

御影堂【建造物】 - 歴史と見どころ|浄土宗総本山 知恩院

 

ネット検索で全くひっかからなかったのですが、京都御所でも未完のままにしてある場所があったはずです。

 

 

未完成ラブロマンスの真相

恋愛アニメやドラマでは、主役の男女が徐々にお互いを意識するようになり、両思いになってハッピーエンドというお決まりの展開があります。

 

ただ、その一方で私自身がより強く感情が揺さぶられるのは、ハッピーエンドの主人公たちよりもむしろ、主人公に恋をしていたのに叶わなかったサブキャラ達だったりします。

 

魅力あるサブキャラ達の未完成の恋美しく描いた「とらドラ」「月がきれい」は心に沁みるものがあるのでオススメです。

 

男子大学生の怠惰で無為な青春の日々を描いた小説、四畳半神話大系

若干ネタバレになってしまいますが、その小説の中で

「成就した恋ほど、語るに値しないものはない」

と、ある種照れ隠しを含めた言葉を使い、作者の森見登美彦先生は主人公たちのその後を描かずに終わっています。

 

全てを描かないことで、読者がその後を想像する余白を残す。

未完成の魅力とは、そういうところにあるのかもしれません。

 

 

 

ちなみにこの「未完成の美学」というネタは、このブログを開設した時には既に思いついていて、ずっとテキストメモにタイトルと概要だけ書いて放置していたもので、8年も未完成の状態でした。

 

他にも大量に未完成の記事があり、これらは全て「完成してしまうと崩壊が始まる」という先人の教えに則って、あえて未完の状態で放置しているのであります。

 

おさかなにサボり癖がある限り、このブログは完成しない

 

私のブログからも、そんな未完の哀愁を感じ取っていただけると幸いです。

 

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